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佐藤:もう一つの問題は、一日の情報機器作業(PC、タブレット、スマートフォンなどを使用した作業)に費やす時間の長さです。起きてから寝るまで一日中、長い時間座ったままでモニター画面を見ている上、仕事以外の時間も30%はスマホやタブレットに費やされていることが私たちの調査からわかりました。
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PC作業は、目や脳、指の先などはすごく活発に活動していますが、頭の位置や手の動きなどは制限され、時間的にも身体活動的にも拘束性が強い作業です。それを長時間集中することによって、姿勢のゆがみや低活動による不調が生じることがあります。特に問題なのは「座りすぎ」「うつむき過ぎ」「見つめ過ぎ」の3つです。
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資料提供:佐藤さとみさん |
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第一に「座りすぎ」。日本人が1日のうちで座っている時間は国際的に見ても非常に長いのです。座っているときの運動量(身体活動量)はベッドのなかで横になっているときと同じ1METs(運動強度の単位:メッツ)しかなく、寝たきりと同じ状態だと思ってください。不活動から、下半身そして全身の血流低下が起こり、筋骨格系の痛みやゆがみが生じ、胸郭や肩が硬くなると、呼吸もしづらくなります。
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●身体活動強度「METs」
メッツは国際的に使われている運動・活動強度の単位。数値は安静時を1として示される。
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【 身体活動・運動の強度と量の指標 】 |
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(日本健康運動研究所 ホームページより) |
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また、座りすぎは腰への負担もかかります。立っているときより座っているときの方が腰にかかる負担は大きく、特に疲れて前のめりの姿勢になると1.85倍の負担がかかります。長時間脚を動かさないことで血液循環も悪くなり、心臓疾患やⅡ型糖尿病といった疾患のリスクも上がります。このような状態が続けば頭にもやがかかったようになり、集中力、思考力が低下する状態「ブレインフォグ」にも陥りやすくなります。
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海外では「Sitting is new smoking」とか「Sitting is killng you」という標語もあり、座りすぎはタバコと同じくらい体に悪いことだとされています。30分~1時間に一度はトイレに立ったり、コーヒーを淹れに行くなど、少しでも動いてほしいですね。
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-スマホを見るとき、首には3~5倍の負荷が |
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佐藤:PC作業が拘束性強いのとは逆に、スマートフォンは自由度が大きいのですが、小さい画面をのぞきこむことで姿勢が前方にうなだれ、ゆがみやすいという特徴があります。実は人間の頭は重くて、4~6kgもあるんですね。私たちの調査では、立ってスマートフォンを見ているときの首の角度は37度±14度ですので、実に20kgくらいの負荷が首にかかっていることになります。自宅でさえトイレに行くまでの間に無意識に歩きスマホをしている人も少なくなく、「うつむき過ぎ」で首が痛くなるのも当然なのです。
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(Kenneth K. Hansraj. Surgical Technology International.2014 Nov.25: 277-279) |
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一方、PC作業での首への負荷はどうかというと、デスクトップPCの場合15㎏程度。ノートPCはモニターの位置が低いのでより大きくなります。うつむき姿勢を長時間続けることで脊柱のゆがみが生じ, 頸や肩のこり、頭痛、ひどくなるといわゆるストレートネックや脊柱管狭窄症や椎間板ヘルニア等、手術が必要になることもあります。ノートPC用のスタンドや、外付けキーボードなどなるべく首に負担がかからないツールを用いるのもよいと思いますが、座りっぱなしの同じ姿勢ではだめ。やはり「動くこと」が大切です。
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第三の「見つめ過ぎ」の影響としては、目の痛みのほかに顔の筋肉が緊張し血流が悪くなります。そのため、首や肩こり、緊張性頭痛、集中力低下などの影響があるといわれています。リモート会議や電話、家族との会話などしゃべる機会があれば解消されますが、一人暮らしの方が会議もなく、ひたすら作業に没頭する日には要注意です。
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モニター画面からのブルーライトも長時間さらされると体内時計(サーカディアンリズム)を狂わせ、自律神経の働きにも影響することがわかってきました。睡眠障害やメンタルヘルスへの影響のほか、肥満やがんにも影響すると考えられています。
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また、集中している時に無意識に歯をかみしめるくせがあると、顎関節症の原因になります。実際に顎関節症はいまとても増えているのですが、コロナ禍でしゃべる機会が減ったことが影響しているのかもしれません。
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