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―中山先生は情報の信頼性を判断する5つのポイントを挙げておられます。 |
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中山: 5つのキーワードの頭文字を並べて「か・ち・も・な・い」と覚えやすくしました。 |
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●「か」=書いたのは誰か
中山:まず、著者や情報を提供している人が誰か、どのような資格を持っているか。ソーシャルメディアでもきちんとした情報発信をしている専門家はいますが、匿名の医師や専門家の情報は、信頼性は低いです。また、氏名や所属を公表していても、それが事実でない場合もあります。その人が所属している(と言っている)組織のウェブサイトで検索すれば、本当にいるのか、どこの所属なのかがわかります。
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本当の専門家であるかどうかの見極めは、その分野の研究をし、論文を書いて国際的な学術雑誌に発表しているかどうかですね。科学的根拠が不十分な情報を流している医師は、論文はあまり書かず、著書ばかりたくさん出しているということが多いです。本が売れるように極端な情報発信――いわゆる炎上商法的な煽りをするケースもあります。著者の個人名と「トンデモ」のダブルワードで検索すれば、その人が信頼できない情報を流している可能性を知ることもできます。それを手がかりに、ソーシャルメディアで誰が誰をフォローして、どういう繋がりで発言しているかを見るのもよいと思います。 |
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●「ち」=違う情報と比べたか?
中山:2つめの「ち」は、「違う情報と比べたか」「他の情報と違う点はないか」ということです。 たとえば、「どういう人がある種のがんに◯倍かかりやすい」という数字はエビデンスに基づいたものです。ただ、サンプル数がとても少ないとか、専門家から見れば意味のある差異はない、という場合もあるので、やはり数字だけよりは専門家の意見、解釈と合わせて見られると良いのです。しかし、一般の記者はそれほど知識があるわけではないですから、当事者である企業や研究に関わった専門家の意見と、せいぜい1人の専門家の意見程度で報道してしまいます。新しい治療法や健康情報を、長所と短所をバランスよく提示してくれる中立的な情報提供機関があれば望ましいのですが、残念ながら日本にはそういう機関がないので、私たち自身がひとつの情報で信用するのではなく、いろいろなところから情報を集めなければなりません。
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―いろいろ集めると言っても、なかなかハードルが高い気がします…。 |
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中山:基本的には、政府系、行政、WHO(世界保健機関)など公的機関が出しているのは中立的な情報であるはずです。「政府が信じられない」と言われてしまうと何とも言いようがなくなるのですが、少なくとも個人の意見よりは中立的です。 また、治療や検査方法については学会が公表している「診療ガイドライン」を参照するのもよいと思います。「診療ガイドライン」はエビデンスを集積した上で、専門家が吟味し評価してまとめたものです。市民向けに書かれたガイドラインはごく一部の主要な疾患しかないのが難点ですが、論文を検索して読むよりはまずガイドラインを見るのがよいと思います。
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●「も」=元ネタ(根拠)は何か?
中山:3つ目は「元ネタは何か」です。元ネタとは根拠のことで、何よりその根拠となる情報が信頼できるのかどうかです。目安としては、出典や引用などがきちんと示され、元ネタの論文などのURLのリンクがついている記事は信頼できると言えます。また、きちんと根拠となるデータがあっても「チェリー・ピッキング」(さくらんぼの実の美味しいところだけを摘み取るように、都合のよいデータだけ抜き出されるという意味)が行われている場合もあります。記事をよく見ると、元ネタはある個人や団体の意見や感想にすぎない場合もあります。見出しに並ぶインパクトの強い言葉につい目を奪われがちですが、それだけで事実や結論とみなさないようにしてください。
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●「な」=何のための情報か
中山:4つ目は「何のための情報か」。広告目的で作られた記事は客観性に乏しく、中立でない可能性があります。よく見ないと広告だとわかりにくい記事もありますが、見分け方としては「絶対安全」「必ず成功」「最高」「驚異の」「奇跡」などの修飾語があるかどうか。こういう言葉は本来、客観的な情報提供であれば不必要な言葉です。また、感情や直感に訴えかけてくるような「日本人が知らない」「秘密の◯◯」「メディアが報じない」なども客観的な事実であれば必要がない言葉です。
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●「い」=いつの情報か
中山:たとえば、昔は「1日1個まで」と言われていた鶏卵が、2016年に厚生労働省の「日本人の食事摂取基準」では「上限なし」になり、2020年版でまた「脂質異常症の人は食べ過ぎないように」という勧告がつきました。同様に、健康に良くないと言われていたコーヒーが、今やポリフェノールが多く健康的な飲み物と言われるなど、健康医療情報は新たな研究の成果で変わるものです。もちろん、過去の経緯を無視して全く新しく作り変えているわけではありませんが、新しい情報ほど基本的にevidence based、つまり科学的根拠に基づいた情報になっています。ですから、記事の作成日や更新日、本の出版年など最新の情報であることをきちんと示してあるかどうかが大事。健康医療情報の発信者の誠意としてもとても大切なことだと思います。
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YouTubeチャンネル「ヘルスリテラシー・健康を決める力」より https://www.youtube.com/@healthliteracy-skills
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