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―時計遺伝子の働きは「体内時計」と呼ばれていますが、どこで調整されているのですか? |
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大池:体内時計は1つ1つの細胞内にあり、我々は全身に無数にある時計をひとつの大きな時計として使っています。ただ、全身の時計を一度に同期させるのはなかなか難しいのです。よく“朝の光は重要だ”と言われますが、頭の時計はおもに光によって同期され、身体の時計は食事や活動によって同期されます。毎朝、朝食を食べることで身体の体内時計に時刻情報が入るのです。
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―朝型の人と夜型の人とでは、体内時計は異なるのですか。 |
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大池:朝型や夜型のことを「クロノタイプ」と言います。その人の体内時計に応じた生活パターンのことですね。クロノタイプが決まるのは、生活習慣の影響が大ですが、遺伝子の影響を強く受けている人も1割程度います。ただ、健康面で言うと、朝型の方が生活習慣病や精神疾患にかかりにくいのです。イギリスで43万人を対象に行われた5年間の追跡調査では、夜型生活者は病気のリスクが高く、死亡リスクも朝型生活者に比べて10%高いという結果が出ています。ですから、メンタルヘルスには気をつけたいと思っているなら、少し朝型の生活習慣に変えてみるのもよいと思います。普段、自分のクロノタイプを意識していない方は、「睡眠医療プラットフォーム」のサイトで判定できます。 |
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※「睡眠医療プラットフォーム」https://www.sleepmed.jp/q/meq/ |
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―夜型の人が、努力して朝型に変えることはできますか? |
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大池:ほとんどの人は可能です。睡眠時間を削るのは無理がありますが、仕事の時間を自分でコントロールできる環境があれば、1時間早く寝て1時間早く起きることは可能でしょう。ただ、「どうしても変えられない」という人は、遺伝の影響を受けている可能性があるので、無理に変えない方がよいと思います。 |
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―4~10月の時刻を標準時より1時間進める「サマータイム制度」を導入している国もあります。 |
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大池:時間栄養学会と睡眠学会は、サマータイム制には明確に反対の立場です。海外の報告では、サマータイムへの切り替えの時期に疾患、特に精神疾患の発症数が増えています。たとえ1時間でも、国全体で実施するとその影響は大きく、感受性の高い人は不調を抱える原因になります。
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―よく「体内時計を整える」と言いますが、どうすれば「整う」のですか。 |
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大池:体内時計が毎日同じように規則正しく時間を刻むことが大事です。夜型は朝型よりも健康に悪いのですが、早朝出勤する日があったり、深夜の作業に赴く日があったりと、日によって異なる不規則な生活は、夜型以上に悪いです。ITエンジニアの仕事の環境に合わせるには、むしろ夜型をベースに置いた方が規則正しく生活できる方が多いかもしれません。注意したいのは、昼間のうちに日光に当たること。夜型の人は光が不足しがちなのですが、光を浴びることは体内時計に刺激を与え、きちんと働かせるのに必要です。午後の活動時間中に少し散歩をして光を浴びることをルーティンにしておくと、健康面ではプラスになると思います。
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―仕事をしていればどうしてもイレギュラーな日があるのは避けられませんよね。 |
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大池:難しい問題ですよね。イレギュラーな日が週に1~2日の場合は、体内時計は動かさないほうがいいと考えられます。朝早い日があっても、夜型の人はできるだけ夜型の生活時間のままにし、食事の時間はいつもと変えないようにします。昼間の時間がいつもより長くなりますが、後遺症が少なくなります。 |
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―“後遺症”があるのですか…。 |
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大池:朝早い日でも起床時間はともかく、食事の時間を変えてしまうと体内時計が動いてしまい、体内では時差ボケが起こってしまいます。週1回のペースで海外旅行から帰国する生活は、身体に相当負担がかかりますよね。 |
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―夜間勤務や3交代制が必要な職種は、メンタルヘルスへの影響を受けやすいとも聞きます。 |
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大池:シフトワークとメンタルヘルスとはかなり関わりがあります。ただ、時差に強いか弱いかに個人差はあります。イレギュラーな生活をした直後に精神的に不安定になることが多いとか、体調を崩しやすいという人は、自分にはシフトワークはあまり向いていないと考えていいでしょう。 |
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―最近は24時間営業のフィットネスクラブもあります。深夜に運動することは、体内時計的にはどうなんでしょう? |
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大池:体内時計を決めている因子には、光と食事のほか「運動」があります。運動の刺激によって体内時計が「この時間帯は活動時間帯だ」と認識します。フィットネスクラブで運動するのはかなり大きな刺激になるので、いつも夜間にそこで同じような時間帯に運動するのはよいと思います。行く日と行かない日があるのは構いませんが、朝行ったり、夜行く日があったりとバラバラなのはやはり時差ボケの原因になります。
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